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最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)562号 判決 1963年12月03日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中筋義一、中筋一朗の上告理由第一点について。

証券取引法第五六条第一項によれば、有価証券外務員(以下外務員という)は証券業者の営業所以外の場所において有価証券の募集・売買又は有価証券市場における売買取引の委託の勧誘に従事する使用人であると定められているけれども、外務員の職務は有価証券の売買・取引委託の勧誘のみにとどまらず、証券業者が、右職務に関連して、外務員に、その営業所の内外において、顧客からの株式売買取引の受託、顧客との間の受渡のため株券又は代金等の授受をなさしめうるのが証券取引界一般の実情であること、上告会社を含めて一般に証券会社は、顧客に対するサービスとして、顧客に証券会社の名義を貸し、保護預り又は名義書換のため株券の寄託を受けていることは、原審の認定するところである。従つて、右取引の実情にかんがみれば、外務員は、特別の事情の存しないかぎり、営業所の内外において証券業者の使用人として、顧客から株式の売買取引の委託を受け、顧客との間に受渡のため株券又は金銭を授受することについてのみならず、保護預り又は名義書換のために株券の預託を受け、さらに、名義貸し契約をし、これに伴い株券を授受し、新株払込金を受領する等の事項につき、証券業者から個別的に明示の代理権授与をうけなくても、一般に、証券業者を代理する権限を有するものと解するのが相当である。証券取引法第一二八条も、取引所の承認をうけた営業所以外の場所で取引受託の取扱をすることを禁止する趣旨とは解されず、その他証券取引法中、外務員が前記事項につき一般に証券業者の代理権を有するとの右解釈を妨げるに足る規定は、これを発見しえない。また、所論引用の広告は必ずしも前記認定の妨げとなるものではないとした原審の見解も、これを肯認することができる。もつとも、証券業者と顧客との取引に際し外務員が介在する場合において、外務員が証券業者の代理人たる地位に立つか顧客の代理人たる地位に立つかは、各個の取引の具体的事情によつて決すべきものと考えられるが、一般に外務員は証券業者の使用人たる地位を有するのであるから、証券取引の委託事務処理については、証券業者を代理するものと認められるのが通常であつて、これと反対に外務員が顧客の代理人と認められるためには、外務員と顧客との間に一般取引関係からする信用をこえる特別の個人的信頼関係が存し、かかる信頼関係のために、顧客が外務員に対し証券業者の使用人たる立場を去つて特に自己のために行為することを求め、外務員がこれに応じたものと認められるだけの特別事情が存することを要すると解すべきである。

原審の確定した事実によれば、被上告人は、丸二証券株式会社の取締役営業部長であつた訴外小南正義を通じ従前同会社との株式売買委託契約に基き取得した株式につき、その配当金の領収増資新株の取得などの手続を同会社に委託し、右手続の便宜上株主名義を同社名義として(いわゆる株式の名義貸)株券は自己において所持していたところ、昭和二八年八月八日前記会社が上告会社に吸収合併されたので、被上告人は、合併後上告会社京都支店営業部長兼外務員となつた前記小南に対し(小南は証券取引法五六条の届出をした外務員である)、上告会社名義に書換える目的で前記自己の所持する丸二証券名義の安田火災株式二、六〇〇株日本レース株式二、五〇〇株を交付して寄託し、さらに、その後、安田火災株式については一株につき二・五株の有償割当、〇・五株の無償割当が、日本レース株式については一株につき一株の無償割当がなされたので、同二九年一月一一日頃小南に対し右安田火災株式に対する有償割当六、五〇〇株の払込金を交付したのであるが、右株券及び払込金が交付された前後を通じ、外務員である小南と顧客である被上告人との間に、一般取引上の信頼をこえる特別の個人的信頼関係が存したとは認められないというのであり、右の事実によれば、小南が被上告人から前記株券及び新株払込金を受領するにつき上告会社の代理人としての地位において行為したとする原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、所論は独自の見解にたち原判決を非難するものであつて採用できない。

同第二、三点について。

原審の確定した事実によれば、上告会社の代理人である小南は右会社のためにすることを表示して被上告人から株券等の交付をうけたところ、その際、被上告人において、小南が右代理権限を濫用し自己の利益をはかる真意を有していたことを、知り又は知りうべかりしであつたとの上告人主張事実は認められないというのであり、論旨第三点指摘の原審認定事実が存するからといつて、被上告人において前記小南の真意を知りうべかりしであつたと認めなければならないものではない。そして、原審の認定した右事実によれば、小南の前記行為の効果は民法第九三条の法意にてらし本人である上告会社に帰属すると認めるのが相当であり、原審が右の趣旨を判示していることは判文上明らかである。原判決に所論のごとき法令違背、理由そごの違法はなく、所論は、ひつきよう、独自の見解にたち原判決を非難するものであつて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一)

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